ご冥福をお祈りいたします。


先日のセパンGP、2周目に起きた事故によって、
若干24歳のマルコ・シモンチェリ選手が亡くなりました。

謹んで、ご冥福をお祈り致します。

自分もモータースポーツの世界に生きているので、
今までにも、このような事故を目にしてきました。。
こういう事故のたび「安全性の見直し」が叫ばれ、事実、年々安全性は向上して行きます。

しかし・・今回のように「本当に誰のせいとも言えない。」事故が起きてしまうのも、
またモータースポーツの宿命です。

「何が起きたのか?」を正確に記録して、同じ事が起きる事を出来る限り防ごうとする努力を重ねる事こそ、
命を落としたライダーへの鎮魂であり、また、私たち関係者に課せられた義務ではないでしょうか?


この事故は、シモンチェリ選手の母国である、ここイタリアでは非常に大きく取り上げられ、
まるで国中が悲しみに包まれている・・と言っても過言ではないでしょう。

事故の経緯を追う前に、やはり、きちんと明言しておくべきでしょう。

この事故は誰の責任だ、というべき性質の事故ではありません。
それでも、事故が起きてしまうのがモータースポーツという世界なのです。

さて、事故の後、何度も繰り返し放映された事故の経緯です。


こちらには、間一髪ですり抜けたNickey Heyden選手のオンボード映像も含まれます。

・まず、フルバンク近い角度で、クリッピングに着くと同時にリヤがスライドを始めて、
スリップダウン・・
・左足がステップから離れてしまう。
・それでも何とかマシンを立て直そうと「ぶら下がる」状態のまま、
・イン側へコースを横切る形になる。
・C・エドワーズ選手と接触
接触された弾みで車体が起こされ、グリップを回復、
・同時にヘルメットが飛ばされる。
・マシンは更にイン側へと急激に回頭、
・3台が絡み合って、C・エドワーズ選手は乗り上げ、転倒。
・シモンチェリ選手は、マシンと離れアウト側へ投げ飛ばされる。


一見すると、V・ロッシ選手は、接触はしたものの・・何とか逃げたように見られます。

しかし・・

この一瞬を前側から捉えた画像。

つまり・・この事故の発端は、
スタート2周目という初期に・・
「あまりにも過大なバンク角を取り過ぎた。」
事が原因です。
実際に、後方からのスキッド初期を映したオンボード映像では、
ほとんど肘まで接地する状況だった事が見て取れます。

とは言え、少しでもコーナーリング・スピードを稼ごうとすれば、
より深いバンク角になるのは自明の理であり、

強いて言えば、スライドの始まった初期に、
諦めてバイクを蹴っていれば助かったかもしれない。
と言う事もできますが・・・

始まったばかりのレースで、ちょっとコースアウトしそうな状況だからといって、
そうそうに諦めるような事はライダーである限り難しい事でしょう。

もちろん・・
目の前にコースを横切って制御不能なマシンが飛び出して来たのを、
C・エドワーズ選手とV・ロッシ選手に避けろ、というのも無理な話です。

さらに、コース・マーシャルの対応は、充分に機敏、かつ適切であったと言えると思います。
事実、赤旗を出すのに寸分の遅れもありませんでした。
また、コース上に他車が居る間は、意識を失うライダーの横に二人のマーシャルが付き、
黄旗を振りながら、クラッシュパットでライダーを守りつつ、
救急車を待っていました。

事故の直後からイタリアの報道などでは、
ラクション・コントロールの不具合
を指摘する声が出ていましたが・・

現実には、リヤのスライドが始まっている場所で、アクセルは開けていない。
と見て良いと思われます。
つまり、どんなトラクション・コントロールをもってしても、
オーバー・アングルでのスライドなど止め様が無いのは、技術者なら判る事です。


一番、疑問に思えるのは、
なぜ・ヘルメットが脱げてしまったのか?
という点で、本来・・ヘルメットという物は、絶対に外れてはいけない物ですからね。

その他にも、現場の技術屋さんとしては、

・この車のホイールベースは他車に比べて長くなって居なかっただろうか?
・タイヤはハードを選択した、と言われているがグリッドでのエッジ温度は?
・キャスター、トレールは、どんな値になっていたのか?
・全閉時のアイドル回転数は?
・前後のスプリング・バランスは?

という点が気になると言えますが・・
その、どれもが事故の原因に直接結びつくとは思えません。

このように・・
「誰も悪くない」のに、尊い命が一つ失われてしまうのが、
モータースポーツの現実であり、また、そこに関わってしまった以上、
この現実から逃げる事なく、さらに安全性を追求して行く事が、
我々関係者に課された課題であると、再認識させられます。

レーシングスーツへのエアバッグ着用義務付けや、タイヤのエッジグリップ性能向上も含めて、
技術者一人一人が、「安全なモータースポーツ」という難題に取り組み続ける事を約束して、

追悼の言葉とさせて頂きたいと思います。